2019年6月7日金曜日

ただいま航海中 オーバーオール           真鍮焼印とエラー ~道草編~

構想段階のオーバーオール。

生地を買った。糸、ジッパー、タグは買置きのヤツを使う。

先日からリベットを探していた。

リベットは画鋲のようなとがった土台とふたになった金属で構成され、布をはさんでプレスして接合させる。直径一センチに満たない程度の金属のあれだ。

皆さんご存知だろうが、俺はデニムを自作するまでリベットなんかを意識してみたことがなかった。

デニムマニアの諸兄はこのリベット一つに含蓄があるらしい。


ボタンはベルトをすると隠れてしまうのでデザイン云々は二の次でいいと思っているのだが、リベットは見える場所に打つので履いたときの印象が変わる。

リベットは今まではバッグ資材用のカシメを打ち込んで、それなりに仕上がったと自己満足していた。
今回のオーバーオールには、さらに本格的なデニムに迫りたいと思った。

近所の手芸店には販売していないのだが、ジーンズリベットのネット販売は見つけた。
いまどきは何でもネットになる。

しかし、当然割高で送料もかかる。どうせならネットではなく対面販売している小売店で買いたいと思っていた。

で、探したら近くに革細工の資材専門店があり、ここにジーンズ用リベットを小売していた!!

選択肢は4つほどでその中の一つを選んだ。これで本格デニムに迫ることが出来る。

今、在庫を持つリスクからか小売されている店を探すことは至難の状況で、リベットだけに限った話でなく、何でもかんでもネット通販の時代にいささか残念だ。ネットは豊富な種類の品物を選ぶことが出来るという豊かな世界ではあるが、相手の顔が見えない、品物を手にとって比較できにくく難しい。

反面、言い換えれば、顔を見なくて済み、後ろを向いてべろを出していても相手に知られることなく、先に支払いを要求できる点からも売り手市場なのかもしれない。

もう少し考えると、今までは余計に笑顔で愛想よくして販売にかかる見えにくい労力というエネルギーが価格に反映されていたのではないかともいえなくもない。

リベットは何とか入手したが、問題は革パッチ。

前回までのデニムには革パッチはつけたものの、油性マジックで屋号を入れただけの簡素な、というか手書きのもの。(屋号といっても商売ではない、個人の作品なのでペンネームとか言う類の物と言うたとえが近いか)和風なら雅号か。

前作の革パッチは油性マジックで手書き・・・と、相当雑な仕上がりになってそれはそれで味にも思えるが、手書きゆえの失敗感がかもされてしまい、出来上がりはいかにも手作り。

今回はもう少しひねってみたいと思ってどうせなら焼印をつくってしまおう。焼印だ!

革への焼印。デニム、オーバーオールときて焼印が加わり創作範囲がじわじわ広がりつつ始末できないまま部屋も散らかり放題。

焼印といえば、真鍮だろう。
焼き鏝といえば電気式だろう。
この方向性で研究調査の日々に追われ、気づいたら5月も後半戦だ。

みんな大好きネット検索で探すと真鍮が最適らしく、たいてい専門業者がCNC旋盤で機械的に彫ったものが主流のよう。CNC旋盤を個人で購入して使いこなすまで、たとえエントリーモデルを選んだとしても最低15万から20万のスタートコストは覚悟しないといけないようで他の使い道があるならまだしも、一点ものの作品の製作コストを考えると、さすがに趣味の領域を超えてしまう。そこまでの勇気はないへたれな俺。

手彫りの精度は1文字20ミリかせいぜい15ミリが限界だろうと、一度やってみて思った。

革パッチは「Lee」のような、パッチサイズの中に大きな三文字構成の彫刻なら俺の手彫りでも可能だろうが、もう少し小さい文字をデザインしたい。

このようなデザインをかなえるのにオーダーメイドの真鍮焼印専門業者価格は見積もりを見るまでもなく数万円。これを考えると、ハンドルーターによる手作業で掘るという方法がエコノミーだと思った。

とりあえずデザインは決まったが、有料ソフトのイラストレーターはこれまた高額なので無料ソフト、インクスケープをダウンロードし試行錯誤の末、デザインのための必要最小限の機能を使って描いた。

出来上がったデザインデータを真鍮に転写する。これはレーザーコピーのトナーの熱転写で解決したがきちんと転写できるまで20回くらいやり直しただろうか。熱転写といっても使い古しの普段の家庭用アイロンが猛威を振るう。

細かすぎるデザインには妥協が必要で、文字、イラストの線、幅を再検討して原版から修正すること5回。

何とか熱転写を成功させ、次は真鍮エッチングだ。転写した原版をハンドルーターで直手彫りも考えたが、直線とエッジ感を表現するのにはエッチングだと思った。

ここでも4回失敗した後5回目で形になった。F式というヤツを参考にした。

きれいに文字とロゴマークは浮き出たが、思いのほか浅い。柄を深めるためハンドルーターによる手彫り加工の作業はさらに地獄を見た。

素材が真鍮なので硬い。やってみてこれほどまでに硬いのかとつくづく出口の見えないトンネルの長さに心が何度折れそうになったか。いや、折れたかもしれない。

ここまで振り返って何回失敗を繰り返したか、もう数え切れない。ここに記載していない小さな失敗は山ほどある。果たして失敗の先に完成を見るのかどうか2ヶ月以上長いトンネルをひたすらとぼとぼ歩いている。

失敗と成功の違いもいろいろだが、工業製品の場合1ミリ、コンマ5ミリ、0,00何ミリなんて誤差を許さないことだってあるだろうがまさかそんな世界でもなし、あくまで俺がよしとするところを目指した。

一旦、やる気スイッチを上げるため、試しに押してみた。

100点とまでは行かないが、100点が見えてきた。

自己満足と言う言葉を使いたくはないが、景色は変わった。


エラーについての持論。

仕上がりのすばらしい工業生産品と、素人の手作業はずいぶんかけ離れ、趣味に毛が生えた程度のものでしかないのだけれど、世界にたった一つだけの俺の服であって二つとない。

売られている工業用ミシンで縫製された縫い目の整った歪みない仕上がりを見るとつくづくその完成度のすごさが身にしみる反面、なぜか失敗や不ぞろいなどエラーを許さない物づくりにしんどいものを感じてしまう。

自分でミシンを使うようになって難しさを思い知らされ、売り物の縫製、縫い目を今まで以上に見るようになった。

人の失敗を許せないのに自分が作ると失敗を棚上げしている。自分勝手とはこのこと意外にないだろう。

俺は自分でステッチに失敗したゆがんだ服を自分で着ている。自分の失敗は自分で責任を取っているともいえる。しかし、いざ金を払って歪んだステッチの服をあえて選ぶことはないだろう。(ビンテージデニムは歪みが特徴だったりするらしいと知った。あえてその歪みを再現したりすることも売りにしていたり一部マニアの世界らしい。わざと歪めている)

わざと歪めるのと、下手な結果の歪みとは別物だと主張する意見を見聞きしたが、ビンテージデニムの歪みはわざと歪めたのだろうか。

毎日何がしかのエラーに遭遇する。

品質高い日本人の仕事であってもエラーは日常茶飯事で本当のところ、日本製が優れているのか、甚だ疑わしいと思っている。確かに世界で日本製が高評価されているのだが、日本で普段、これほどエラーに遭遇しているのだから、世界がもっとエラーだらけなのか、あるいは日本はエラーを修正、修復する力があるということなのかもしれない。

エラーに関しての捉え方は深めると面白い。

こんなだから完成はいつかわからない。







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