2020年2月1日土曜日

1991年の武漢・中国の旅

1991年2月28日 上海に上陸した。

4日ほど市内をうろついてフェリーに乗った。行先は武漢だ。

武漢行きのフェリーは5等(正確ではない)くらいあって、外国人が乗れるカテゴリーは3等までだったと思う。フェリーの切符の手配は上海市内をほっつき歩いていた時に見つけた中国旅行を取り扱う旅行社で頼んだ。対応してくれた女の子の日本語が上手で、半ば下心からだ。

当時俺は2等船室の2段ベッドの下側の一つに転がって船旅をした。一等にはシャワールームが完備されており、素知らぬ顔をして使わせてもらった。外国人の俺は大目に見てくれていたのだと思う。

未だ、芽吹いてもいない冬から春になる前の寒い時期だった。

景色は行けどもはげ山か、殺伐とした枯れた風景が続いていた。

長江は向こう岸がほとんど見えない。こんなにデカい川は日本にない。

時折川岸に近い町や村の景色に近づくこと、そほんの少しの彩りもあったが、ほとんどの場合、グレーな景色だ。

2日目だったか、同室の中国人青年から話しかけられた。聞くと同世代でアメリカ出張の帰りだという武漢出身の江浩氏。彼は武漢大学を卒業し、水道蛇口メーカーで働く。

アメリカ出張だったが、本国から帰ってこいと命令があったので帰らざるを得ななかったと言う。船内で色んな話をした。

途中、南京港で停泊するわずかな時間に上陸し、港の売店まで行ってローストチキンを指さし、中華包丁でドスンドスンとカットしてもらい袋に詰めてもらったり、オレンジを買って船室で食べたりした。ある時は船のビュッフェコーナーで「合飯」といういわゆる中華丼のような弁当形式のものを食べたりもした。

1等は4人部屋になっていて、2等は8人部屋。3等は10人部屋のようでいずれも2段ベッドの形式である。4等、5等は詳しくわからないが相当の運賃と客層も幅広い印象だった。大きい荷物を持ち込む人や下層階の中には家畜のような動物(多分ヤギやアヒルなど)を載せていたように思う。

2等に乗船できる位の人はまあまあのステイタスのようで、ある人は学校の教授だったり学者だったり、普通の子連れの母親もいた。1等に乗船している人は見かけなかったので、その時は空っぽなのではないかと思われた。

上海から武漢までの長江を遡上してゆくので海と違い波もなく揺れない。船の振動はあるにはあるが瀬戸内を走る日本国内のフェリーよりも静かなのではないだろうか。


当時の物価を思い出すと、上海の南京飯店はツイン一泊、3000円、ドミトリーの浦東飯店は20人部屋で1ベッド450円くらい。南京大学留学生宿舎は4人部屋1ベッド300円くらいだった。

レストランは一人で食べる分には500円から1000円もかからなかった。簡単なスナック程度か、露天の春巻きとかで数十円で済ませることも多かった。

当時は圧倒的な経済格差があった。時に、中国人の中年のおやじから白い目で見られているような殺気を感じたこともあった。貧乏面したガキが裕福な大人だけが知るレストランに出入りするのだから、今から思えば当然と言えば・・・だろうか。

武漢では、船で知り合った江浩氏が紹介してくれた招待所に宿泊した。

ある時、彼の勤務する会社のビルの17階にあるオフィスに案内してもらい、武漢の街のオレンジ色の屋根瓦の街並みが見える眺望だった。

黄鶴楼、西湖、東湖、鉄道駅(武漢・武昌・漢口)などを見学したり、長江にかかる橋を眺めたり、渡し船で対岸まで行ったりして一通り、おのぼりさんコースをふらついた。


ある時、武昌駅からほど近いホテル(飯店)に宿泊した。そこでひどい下痢に襲われた。フロントで腹を下したので病院はどこだと尋ねると、フロントのお兄さんは病院まで連れてってくれた。

しかもなぜか病室まで一緒に入ってきて診察に付き添ってくれ、医師からは魚を食ったかとか聞かれ、覚えていない云々と答えると尻に注射するという。


当時の中国でどんな注射なのか十分な説明が理解できないままでは打たれるのは嫌だと思い、拒否した。すると内服薬を処方してくれた。付き添ってくれたフロントのお兄さんはホテルに帰るなりスタッフ仲間に俺が注射が怖いとビビってたと笑いもののネタにされた。(笑)

病院代も薬代も記憶にないくらい安くすんだと思う。武昌駅近くの飯店スタッフは良心的な病院の付き添いとハートフルな笑いもの扱いでとてもいい思い出が出来た。

あの時の病院の医者のオーバー気味なジェスチャー(尻に注射を打ってやる!)という情景が忘れられない。

「武漢」という一面見出しのニュースをみると、新型コロナウイルスは残念だが、30年前に出会った武漢の人々は純朴な人達だったし、豊かな懐の広く深い人々が暮らす大都市である。近年は日本企業が進出し、地下鉄網も張り巡らされ発展しているらしい。

一日も早い収束と武漢、中国の人々の平安を願う。

読んでくれてありがとう。

おわり。









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